よくわかる!側彎症

インプラントとは、治療や手術の際に体内に埋め込む医療機器などの人工物の総称です。
側彎症の手術では、曲がった背骨をまっすぐに矯正・固定するために、脊椎にスクリュー(ねじ)やロッド(棒)などのインプラントを使用します。
手術ではまず脊椎にスクリューを挿入し、矯正を加えてからロッドを挿入します。その上でロッドローテーション等を施行しさらに矯正していきます。スクリューを挿入できないところではフックを使用することで骨をしっかり捉えることが可能です。
インプラントを挿入することで、矯正した状態で骨がしっかりとつながるようになります(骨癒合)。

インプラント

模型を利用した脊柱側彎症の後方矯正固定術

インプラントの歴史

インプラントは手術後の体の安定を支え、術後の生活の質(QOL)を向上させるために必要不可欠な医療材料です。しかし、かつては現在のような強度や体への適応力が高いインプラントがなかったため、側彎症の手術にも制限が多くありました。昔のインプラントは、材料や設計が今ほど進んでおらず、体内に留めておくと錆びたり、骨にしっかり固定できないことがありました。また、強い金属製のインプラントもありましたが、重くて体に負担がかかりやすいものでした。

以前のインプラントは、体とのなじみが今ほど良くなく、アレルギー反応や炎症が起こるリスクも高かったため、長期間体内に残すのは困難でした。さらに、MRIなどの検査でも問題が生じやすく、治療後のフォローにも課題が多くありました。

しかし、技術が進むにつれ、現在では体への負担が少なく長期間使用できるチタン製インプラントが普及し、今では手術後の生活の質も向上しました。

インプラントにチタンが使われる理由

体に優しく、なじみやすい

チタンは人体と相性がよく、骨と直接結合する性質があるため体内に入れたときに拒絶反応(体が異物だと認識してアレルギー反応を起こすこと)が起こりにくい金属です。一般的な金属と異なり、チタンは空気に触れるとすぐに酸化皮膜を形成するため、金属イオンが溶け出すことはほぼありません。 そのため、金属アレルギーを引き起こしにくいという特徴があります。 側彎症の手術では、基本的に挿入したスクリューやロッドなどのインプラントを手術後は体内に入れたまま生活していただきます。そのため、生体親和性が高く体になじみやすいチタンが非常に適しています。

錆びにくく、長期間安全に使える

チタンは非常に錆びにくく、腐食にも強い特性を持っています。特に、海水や塩水に強く、その耐食性はプラチナに匹敵するほどで、鉄や銅、アルミニウムなどの金属より優れています。そのため水分の多い体内に長期間挿入していても影響はありません。

軽くて丈夫

チタンは鉄やアルミより2倍以上の強度を誇り、ステンレスと比べても比重に対する強度は高い金属です。そのため手術で体内に挿入するチタンインプラントは少ない量でもしっかりとした骨の支えになります。
また、側彎症手術で使用するスクリューは 1 本あたり5〜6gと非常に軽量なので、患者さんの体に余計な負担がかかりにくいというメリットもあります。
チタンが軽いのは、比重が低いことが理由です。比重とは、同じ体積の水に対する金属の重さを表す指標で、チタンの比重は約4.51です。これは、鉄の約3/5、銅の約1/2の重さで、金属の中では軽い部類に入ります。
チタンは、その軽さと強さを活かして、航空機や自動車などの部品など様々な分野で幅広く使用されています。

チタンの代表的な用途(参考)
  • 航空宇宙分野:ジェットエンジンの部品、機体構造材、燃料タンク、ボルト、バネなど
  • 医療分野:人工骨、人工関節、手術器具、ペースメーカー、歯根など
  • スポーツ分野:テニスラケット、スキー板、スパイクなど
  • アクセサリー・装飾品:時計、メガネのフレーム、ピアスなど
  • 調理器具:フライパン、魔法瓶、中華鍋、包丁など
  • 海洋土木分野:滑走路の桟橋、海難救助用部品、海洋・海底調査用部品など
  • 建築分野:屋根材、外壁、床材、手摺など
ボルト
屋根材
歯根

このような理由から、チタンは側彎症手術で使用するインプラントの素材として非常に適しており、長期間患者さんの体内にあっても影響はありません。

チタンインプラントのQ&A

発がん性はあるの?

インプラントを体に長く入れておくことによるリスクとして、がんの心配をされる方もいるかもしれません。ですが、これまでに純チタンのインプラントを使用したことによる発がん性の報告はありません。チタンは、体の中に長期間入れても、健康への悪影響がほとんどないことが確認されている安全な素材です。
また、チタンインプラントは酸素と結びついて表面に強固な不動態皮膜を形成するため、体内で溶けずに安心して使用されています。チタンを体内に留めていることで、健康への影響はほとんどないと考えられています。

MRI検査は受けられるの?

インプラントが入っていると、MRI検査ができるのか気になるところです。MRIは強い磁力を使って体の中の映像を撮る検査なので、通常、金属が体に入っている場合には制限がかかることもあります。しかし、チタンは磁力に影響を受けにくい非磁性体であるため、通常はMRI検査を受けることが可能です。これは、側彎症の術後の経過観察にも非常に役立ちます。
とはいえ、一部のインプラントの種類によっては制限がある場合もあります。検査を受ける前には、インプラントが体に入っていることを医師や放射線技師に伝えるようにしましょう。そうすることで、検査の安全性や正確な結果が得られやすくなります。

ずっと体の中に残るの?

側彎症の手術で使用されるインプラントは、基本的に手術後は一生体の中に残すことが多いです。チタン製インプラントは耐久性が高く、長期間体内に留まっても腐食や劣化がほとんど起きないため、特に問題がなければ取り外す必要はありません。これにより、手術後も固定した背骨の安定を保ち、日常生活の中で安心して活動することができます。
ただし、まれにアレルギーや感染症、痛みが発生するケースもあり、その場合は再手術でインプラントを除去することもあります。手術後に異常を感じたり違和感がある場合は、早めに医師に相談することが重要です。インプラントが安定している限り、手術後も取り外す必要なく普段どおり生活することが可能です。

インプラント技術の進化と将来の可能性

インプラント技術は日々進歩しており、側彎症の治療においてもさらに安全で効果的な方法が開発されています。例えば、成長期の患者さんのために、骨が成長しても追従できる「成長に応じて変形するインプラント」があります。将来的にはこの技術により、成長期に合わせて適切な治療ができ、成長が終わった後も矯正効果が保たれることが期待されます。
また、3Dプリンターを使用して一人ひとりの骨の形に合わせたインプラントを作ることができるようになり、手術の精度が向上しています。これにより、体によりフィットするインプラントが可能となり、手術後の安定性が高まります。さらに、将来的には、体内で溶けるインプラントや、自己修復機能を持つインプラントの開発も進んでおり、患者さんの負担がさらに軽減されることが期待されています。

おわりに

このように、側彎症手術に使用されるインプラントは、体に優しく安全なチタンが使われており、手術後の日常生活においても問題なく生活を送っていただくことができます。また、インプラントの技術も日々進化しており、より安心して手術を受けられるようになっていますので、心配な点があれば事前に医師に相談していただき、安心して治療に臨んでください。