脊椎の疾患
脊柱側彎症
脊柱側彎症とは、脊柱が側方に彎曲する状態を指します。同時にカーブの凸側へ向かって脊柱がねじれる状態となり、3次元の変形になります。
側彎症には、「特発性脊柱側彎症」と「症候性脊柱側彎症」「成人脊柱側彎症」「成人脊柱後彎症」があります。
特発性脊柱側彎症
乳幼児期、学童期、思春期の各時期に発症します。その中でも思春期、第2次成長期(10歳~15歳)に発症進行することが最も多くみられます。カーブが強くなると胸郭の変形が目立ってきます。また、腰背部痛も生じてきます。成長が終了すると側彎の進行増悪は基本的に停止します。しかしながら、その後も少しずつ進行することもあります。
特発性側彎症には、胸椎のカーブや、胸腰椎移行部を中心とするカーブや、胸椎と腰椎の両方にカーブがある場合など、いくつかのカーブのパターンがあります。具体的には、胸椎の右凸シングルカーブ、胸腰椎移行部の左凸シングルカーブ、胸椎と腰椎にカーブのあるダブルカーブなどが多く見られます。
特発性側彎症は、まだ原因がわかっていません。「脊柱の椎骨の成長が筋肉や靭帯などの軟部組織の成長より相対的に多いためではないか」「同じ脊柱の椎骨の中でも前方の椎体の成長と後方の椎弓の成長に相対的な差があって生じるのではないか」など諸説がありますが、まだ正確には判明していません。
症候性脊柱側彎症
先天性の形態形成異常や神経筋疾患など様々な病気に起因して、脊柱変形が発生してくることがあります。例えば、先天性に椎骨の骨が1/2や1/4しか形成されていない場合や、背骨が癒合して成長できないために彎曲してくるといった先天性の脊柱変形、体を支える結合組織が弱い疾患(マルファン症候群)、脊髄空洞症がある場合など、さまざまな病気に合併起因して脊柱変形が発生してくる場合があります。
変形が進行増悪した場合、手術治療を行います。
成人脊柱側彎症
40代~80代の脊柱変形も近年急速に増加しています。思春期特発性側彎症など若いころからの脊柱変形が放置され、加齢とともに進行増悪したものです。背部痛や腰痛、体幹バランスが左右へ傾斜、さらに前掲することで歩行がしにくくなります。肺活量の低下といった心肺機能に対する悪影響や、逆流性食道炎を生じます。
脊柱管狭窄症を合併することも多く、加齢で骨が脆弱になっていることなどから、若い方の側彎症手術よりもやや難しい手術と言えるかもしれません。また、年齢を考えると手術に踏み切れない心配もあるかと思います。
しかしながら、手術が予定通りにいきますと、胸が押さえられての呼吸苦やお腹を押さえられての食欲不振などが払拭されます。背筋が伸びてバランスを回復しますので日常生活がとても楽になります。
また、最近では骨形成を促進する、また骨吸収を抑制する注射薬で骨粗鬆症の治療を強力に行うことができるようになりました。これにより、骨粗鬆症を治療しながら手術を行うことが可能になっています。当センターで脊柱側彎症手術の最高齢は88歳です。
成人脊柱後彎症
脊椎圧迫骨折に伴う、あるいは伴わない脊柱後彎症(前かがみ)は近年、増加の一途です。後彎による胸部圧迫のための呼吸困難や腹部圧迫のための食思不振や、さらに腰痛や背部痛が主な症状です。脊柱後彎症は矯正固定手術をしますと、呼吸や食事が楽になります。腰痛も軽減します。ただし、骨脆弱性を伴うことが多く、手術前に十分な骨強化が必要なことがあります。
側彎症が生じたことにより発生する問題
側彎症は脊柱が側方へ曲がるだけでなく脊柱が側彎の凸側へ回旋する、すなわち捩れてくる脊柱の3次元での構造変化です。
したがって、胸郭が左右いずれかにシフトして、体のくびれが左右対称でなくなるだけでなく、さらに左右いずれかの背中が隆起してくるといった、外観上の問題が生じます。
特発性側彎症は思春期の女性に多く発症しますので、外観上の問題が重要になる場合があります。また、胸腰椎カーブでは骨盤が傾斜して、ベルトやスカートの端が傾いてしまったり、ウェストラインが左右対称でなくなるといった状態が発生します。
重度になれば脊柱変形に伴う胸郭変形に起因する呼吸器の障害(肺活量の減少)が問題になることがあります。
また、側彎症のない方と比較して成人以降(とくに中年以降)に腰痛や背部痛が発生しやすくなる可能性もあります。
脊柱側彎症(せきちゅうそくわんしょう)について、「脊柱側弯症」「脊柱側わん症」や省略して「側弯症」「側わん症」と表記されている場合がありますが、当院では日本側彎症学会の表記に基づき、「脊柱側彎症」の表記を使用しております。なお、「脊柱側湾症」とする漢字表記は誤りです。