入院・手術
手術・費用について
脊柱側彎症の治療
脊柱側彎症の治療法には、装具療法そして手術療法があります。 側彎症の初期のカーブが軽い時期で(Cobb 角25度ぐらい)、さらに進行することが予想される場合には、装具療法を行う事が従来は勧められていました。装具療法を行ってもカーブが進行増悪する場合には、手術治療が一般的な選択肢になります。手術には、「後方矯正固定術」と「前方矯正固定術」があります。 手術時間は若い方の「後方矯正固定術」 が3〜5時間程度、「前方矯正固定術」が4~6時間程度(例外もあります)。中年から高齢の方の「後方矯正固定術」が4~7時間程度となります。(例外もあります) 入院日数はだいたい10日前後です(例外もあります)。
後方矯正固定術
後方矯正固定術は背中の正中に手術創をおいて(図1)、脊柱の後方の要素を展開しそこへスクリューやフックを挿入して、ロッドと連結して、ロッドの回旋操作やねじり戻す操作を加えて脊柱をできるだけまっすぐに、同時にねじれを出来るだけ減らすものです(図2)。
一般的に、前方矯正固定術と比べて固定する脊柱の範囲が長くなります。矯正力、固定力ともに強力です。
脊柱側彎症(後方矯正固定術)
費用 |
手術手技のみの点数、入院費等は別途発生いたします
高額療養費制度(お支払い金額の負担軽減)が受けられます。 |
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治療の主なリスク | 出血、肺塞栓、術後感染、麻痺(センター開設後、麻痺事例はありません)など |
副作用 | 脊柱の可撓性(かとうせい・外力によってしなやかにたわむ性質)が少し低下しますが、日常生活に影響はありません。 |
前方矯正固定術
前方矯正固定術は開胸や後腹膜を展開して、脊柱の前方要素である椎体を展開します。そこへスクリューを挿入してそれをロッドと連結し、脊柱への圧縮操作やねじり戻す操作を加え、脊柱を出来るだけまっすぐに、同時に出来るだけねじれを除くものです。 一般的に、後方矯正固定術と比べて固定範囲は短くなります。脊柱変形に対する矯正力は強力です。
小切開での脊柱変形前方矯正固定手術
従来の前方矯正固定術
上述のように、前方矯正固定術は、短い固定範囲で強力な矯正力を発揮します。 しかしながら、胸椎のカーブに対しては、従来、肩甲骨周囲から乳房下前までの長い斜めの切開を必要としてきました(図3)。脊柱の変形が矯正できても、大きな手術痕が残るのは患者様にとって喜ばしいことではありません。
小切開による手術システムの考案
センター長の江原は「小切開で脊柱変形の前方矯正固定術が出来ないか」と考え、それを可能にする手術システムについて1994年から研究開発を進めてきました。1995年からは日本の医療器械メーカーとの共同開発として、新しい手術システムの開発を始めました。1999年から臨床を開始しています。
脊柱変更の前方矯正固定術を内視鏡を利用しながら脇の下の小切開で行う手術方法です。
これにより、脇の下のライン上の前後2箇所の小切開で手術を行えるようになりました(図4)。
手術痕が脇の下、すなわち上腕の下に隠れて目立たなくなります。体の後ろから見て手術痕がわかりません(図5)。
特発性側彎症の治療
当センターではこれまで、これまで100例以上の前方矯正固定術を行ってきました。この手術方法により、高い矯正率を得ることができます。手術創がわきの下に隠れるため手術痕が目立たないので、若い女性に多い特発性側彎症の治療に利点となります(図6)。ただし重度のカーブや硬いカーブ、また長いカーブは対象にはなりません。
特発性側彎症の治療
費用 |
手術手技のみの点数、入院費等は別途発生いたします
高額療養費制度(お支払い金額の負担軽減)が受けられます。 |
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治療の主なリスク | 出血、肺塞栓、術後感染、麻痺(センター開設後、現在まで麻痺事例はありません)、乳び胸、胸水が出ることもあります(自然吸収されます) |
副作用 | 骨癒合が遅れる場合があります。 |
胸腰椎カーブの手術
胸腰椎カーブに対しては、従来の胸椎カーブに類似した胸郭や腹壁の大きな斜切開ではなく、体幹の腋窩線(わきの下の延長線上)上を縦方向にできるだけ短く、あるいは7センチの傷2箇所で切開して、手術を行う方法を開発してきました(図7)。
この場合も、胸椎と同じように手術痕が体の前からも後ろからも見えません。本法も高い矯正率を得ることができます(図8)。ただし重度のカーブや硬いカーブ、また長いカーブは対象にはなりません。
胸腰椎カーブでは骨盤が傾斜して、ベルトやスカートのウエストラインが傾くことや、スカートの裾が傾くなどということが発生しますが、術後には、脊柱がまっすぐになり、骨盤の傾斜が消失します(図9)。
胸腰椎カーブの手術
成人脊柱側彎症とは
40代以降、中年からご高齢の方までの脊柱側彎症も最近急速に増加し、その手術も大変多くなってきております。若い頃からの脊柱側彎症を放置して、それが年齢とともに悪化したものを指すと考えて差し支えないものと言えます。
若い方の側彎症と比べて、左右へ体のバランスを失うことや脊柱後彎症(背中が丸くなってしまうこと)や脊柱管狭窄症を合併することも多く、また骨が脆弱になっていることなどから、若い方の側彎症手術よりもやや難しい手術と言えるかもしれません。患者さんご自身も、高齢になって年齢を考えると手術を受けたほうが良いのか心配もあるかと思います。
しかしながら、手術が予定通りにいきますと、胸が押さえられての呼吸苦やお腹を押さえられての食欲不振などが払拭されます。背筋が伸びてバランスを回復しますので日常生活がたいへん楽になります(図10)。
また、最近では骨形成を促進する、また骨吸収を抑制する注射薬で骨粗鬆症の治療を強力に行うことができるようになりました。これにより、骨粗鬆症を治療し骨を強化したうえで手術を行うことが可能になっています。当センターで脊柱側彎症手術の最高齢は88歳です。
成人側彎症
費用 |
手術手技のみの点数、入院費等は別途発生いたします
高額療養費制度(お支払い金額の負担軽減)が受けられます。 |
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治療の主なリスク | 出血、肺塞栓、術後感染、麻痺(センター開設後、現在まで重度麻痺事例はありません)、スクリューの脱転、圧迫骨折など |
副作用 | 骨癒合が遅れる場合があります。脊柱の可撓性(かとうせい)が少し低下しますが、日常生活に影響はほとんどありません。 |
成人脊柱後彎症
脊椎圧迫骨折に伴う、あるいは伴わない脊柱後彎症(前かがみ)は近年、増加の一途です。後彎による胸部圧迫のための呼吸困難や腹部圧迫のための食思不振や、さらに腰痛や背部痛が主な症状です。脊柱後彎症は矯正固定手術をしますと、呼吸や食事が楽になります。腰痛も軽減します。ただし、骨脆弱性を伴うことが多く、手術前に十分な骨強化が必要なことがあります(図11)。
その他の脊椎疾患の手術
脊柱変形
特発性側彎症に対しては、症例によっては小切開で手術を行うことができます。まず脇の下に7cm程度の切開を2箇所作成します。そこから内視鏡でサポートしながらすべての手術操作を行い、脊椎変形の矯正と固定を行います。
従って、手術痕がほとんどわかりません(図12)。同時に十分な矯正ができます。
特発性側彎症
費用 |
手術手技のみの点数、入院費等は別途発生いたします
高額療養費制度(お支払い金額の負担軽減)が受けられます。 |
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治療の主なリスク | 出血、肺塞栓、術後感染、乳び胸、麻痺(センター開設後、現在まで麻痺事例はありません)など |
副作用 | 骨癒合が遅れる場合があります。 |
先天性形態形成異常
癒合した脊柱を切り離したり、1/2や1/4しか形成されてない脊椎の骨を切除したりして、そこへインストゥルメンテーション手術を行い脊柱の変形を矯正して固定します。
変性・加齢
変形性脊椎症による脊柱管狭窄症による痛みや麻痺に対して、頚椎でも腰椎でも脊柱管を拡大する手術を行います。
腰部脊柱管狭窄症では、(図13)のように神経への圧迫を解除します。
腰部脊柱管狭窄症と脊椎狭窄症
腰部脊柱管狭窄症(椎弓形成術:神経への圧迫除圧)
費用 |
手術手技のみの点数、入院費等は別途発生いたします
高額療養費制度(お支払い金額の負担軽減)が受けられます。 |
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治療の主なリスク | 出血、肺塞栓、術後感染(頻度1%前後)、麻痺(センター開設後、現在まで重度麻痺事例はありません) |
副作用 | 狭窄再発の可能性があります。再度手術加療を行なうことは可能です。 |
脊椎すべり症や変性側彎症や脊椎不安定症による脊椎狭窄症に対しては、(図14)のように神経の圧迫を解除してさらに脊椎固定術を行います。 また、頸部脊柱管児狭窄症には脊柱管拡大術を行って脊髄の圧迫を除きます。
脊椎すべり症や変性側彎症や脊椎不安定症による脊椎狭窄症(後側方固定)
費用 |
手術手技のみの点数、入院費等は別途発生いたします
高額療養費制度(お支払い金額の負担軽減)が受けられます。 |
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治療の主なリスク | 出血、肺塞栓、術後感染(頻度1~3%)、麻痺(センター開設後、現在まで重度麻痺事例はありません) |
副作用 | 固定した範囲での頭側あるいは尾側椎間での狭窄が稀に生じることもあります。再度手術加療を行なうことは可能です。 |
椎間板ヘルニア
椎間板ヘルニア(図15)に対しては、一般的には出来るだけ小さな切開で顕微鏡下でヘルニア摘出術を行います(図16)。脊椎固定を追加する場合もあります。
腫瘍
腫瘍を取り除いて、神経に対する圧迫を除き人工椎体やインストゥルメンテーションといった手術法でスクリューやロッドを用いて脊椎をしっかり安定させます。
炎症
慢性関節リウマチに伴う破壊性脊椎症では、神経への圧迫を除き、インストゥルメンテーション手術を用いて脊椎をしっかり安定させます。
化膿性椎間板炎・脊椎炎では、排膿して、さらに脊椎固定を行うこともあります。
外傷
破壊された脊椎の骨を除去したり、脱臼した脊椎の骨をもとへ戻して神経への圧迫を取り除き、さらにインストゥルメンテーション手術を用いて脊椎を安定させるために脊椎固定術を行います。
骨粗鬆症に伴う圧迫骨折に対しては、脊椎固定術を行います。
血管障害
硬膜外出血などは、脊椎の骨の一部を切除して、脊髄を圧迫している血腫を取り除きます。
その他
人工透析中に発生してくる破壊性脊椎症などでは、慢性関節リウマチの頚椎に対する治療と同じように神経への圧迫を除き、インストゥルメンテーションを用いて脊椎をしっかり安定させます。
費用補助について
公的な医療費補助制度について
高額療養費制度(国民健康保険)
高額療養費とは 国民健康保険の加入者が病気やけがで医療機関にかかり、医療機関窓口において負担した額(一部負担金)が自己負担限度額を超えた場合、申請により、その超えた額が高額療養費として支給されます。自己負担限度額は年齢や所得によって異なります。詳しくはお住まいの市町村窓口までお問い合わせください。
自立支援医療(育成医療)
※お子さんの脊柱側彎症手術が対象
18 歳未満のお子さんが指定医療機関において身体の障害を軽くしたり回復させたりする治療を行う場合に、医療費の一部を公費負担する制度です。
詳しくはお住まいの市町村窓口までお問い合わせください。